東京高等裁判所 昭和35年(ラ)325号 決定 1960年6月27日
抗告人 一元科学工業株式会社
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告理由の要旨は、抗告人会社は昭和三十五年四月七日特別清算開始決定を受けたが、これより先、昭和三十五年二月二十二日清算結了報告の株主総会を開き、その承認決議を得、同日を以て清算を結了し、同月二十五日清算結了の登記を了した。よつて原決定に服して特別清算をすることはできないので、これが取消を求めるため本抗告に及ぶ、というにある。
しかし、株式会社が清算事務を結了したとして株主総会を開き、計算承認の決議を得て清算結了の登記をしても、現に清算人のなすべき事務が残存している限り、実質的には清算は結了せず、会社はなおその処理のために存続するものというべく、また商法第四百三十一条によれば、会社に債務超過の疑あるときは、清算人は裁判所に対して特別清算開始の申立をなす義務を負うものであるから、普通清算の方法による清算事務を遂行することによつて、右申立の義務を免れることができないのは勿論である。然るところ、一件記録によれば抗告人会社が清算事務結了の報告総会を開いた当時、債務超過の疑があつて、清算人は裁判所に対し特別清算開始の申立をする義務を有していたものであること、及び清算人がその申立をしないため株主より申立がなされ、右特別清算事件は原裁判所に係属中であつたことが明かである。従つて清算人より特別清算開始の申立がなされなかつた以上抗告人会社としては前記の申立事件につき裁判があつてこれが確定するに至るまでは、清算結了のための株主総会を開くことはできず、仮令、その総会を経て清算結了の登記を了したとしても、会社はこれにより当然消滅するに至るものではないから、抗告人が清算結了の登記を経たことを理由に、特別清算の開始並にこれに伴う処分を命じた原決定に従い得ないとする抗告理由は、到底採用することができない。
よつて抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 渡辺一雄)